町田直隆による「BUILD THE LIGHT」セルフライナー公開!

「BUILD THE LIGHTセルフライナー」 by 町田直隆

2017年。
会場限定CD「黒盤」と「白盤」の出来に非常に満足した我々は、その2作のレコーディングエンジニアを担当した鈴木歩積氏と、そのままの勢いで年末からアルバム制作に入ることにした。


レコーディングは非常に楽しい時間になった。
ベーシックトラックを録音した千歳船橋のスタジオでは、ギターアンプを置く場所が奥のレコーディングブースへ続く通路しかなく、度々その前を通過するメンバーに気付かず爆音でギターを鳴らしてしまうことで、メンバーの耳を瞬時に潰すという残虐行為を繰り返してしまった。

ダビングは吉祥寺のスタジオにて、ロックミュージシャンとしては異例の平日早朝8:00からスタジオに集まり、ラジオ体操代わりに爆音オルタナサウンドを浴びる事で寝起きの体を覚まし
、夕方には作業を終えロビーで世間話をするという非常に健康志向の強いレコーディングとなった。

残す作業はミックスのみになった時点で今回タッグを組むことになったLow-Fi Recordsとミーティングする事になり、その話し合いの結果、リリースは7月、そして今回はアルバムではなく、ミニアルバムとしてリリースする事が決定した。

これには完成前のビジョンとしてアルバムを想定していた自分は当初若干不満を持ったが、出来上がったものを聴き、それが非常に正しい選択だった事を今はとても痛感している。7曲に絞る事によって、結果moke(s)の持っているパワーの純度がより高いものになったからだ。


タイトルの「BUILD THE LIGHT」は家の近所を自転車でフラフラしている時に浮かんだ。

「光を求めて」、「光を追って」みたいなメッセージはポピュラーミュージックの歌詞の中で目にする事が多いが、自分は年を重ねる毎にそう言ったメッセージから距離を感じるようになっていた。

か つては自分も大いに「光を追いかけて」いたが、その光はもう遠く後に流れていてしまった様な感覚になる事が度々あった。それはもしかしたらその「光」とは 自分の中で「若き日々に見た夢」みたいなものとして捉えていたからかもしれないからだ。その光は酷く鮮烈だが、刹那的なものでもあった。

だから「BUILD THE LIGHT」という言葉が浮かんだ時には、凄く腑に落ちるものがあった。

直訳すると「光を築く」。

別に「光を創る」でもいい。

とにかくかつて追いかけた光を、これからは光そのものを自らで築き、創らなくてはならないのだ。と、そういうメッセージをタイトルに込めた。

外にある光を追いかければ、その光が消えてしまえば希望は消え露頭に迷ってしまうが、自らが光を築くのであれば、永遠にその希望の光は失われない。


今回収録される7曲を聴き終えた後、この作品に込めた思いを少しでも感じ取ってくれたら幸いだ。


というわけで1曲ずつ自分、町田直隆が解説をしていこうと思う。

■1曲目「BOY MEETS NERD」
この曲の聴きどころはなんといってもイントロの歪んだベースリフだろう。
今日日、中々ベースリフから幕開けする作品もあまりないはずだ。
この曲はある日のスタジオでセッションから生まれた。
それ故にコード進行もシンプルで、メロディーよりもそれぞれの演奏に焦点が当てられた曲だと思う。
ドラムも激しく、間奏ではダンサブルに攻め、
ギターも不穏な旋律を奏でる。
moke(s)の中でも随一のハードさを追求した曲だ。


■2曲目「ログアウト」
性急なドラムフィルと、不協和音のギター、動きまくるベースラインで始まるイントロから徐々にポップに曲が変化して行くのがこの曲の魅力だ。
個人的に8ビートの曲を書くのが得意で音楽人生で何曲このBPMの曲を書いて来たかわからない位だが、随所に細かい小技が入っているので
勢いだけではなく、音楽的にも満足できるものが出来たと思っている。
歌詞はタイトルが先に浮かんでそこからバーッと一気に書き上げた。
人生はネットのように簡単にワンクリックで「ログアウト(脱出)」できないという苦悩を歌っている。
「かっこつけてんじゃねーよ」
出だしのこのフレーズがこの曲のメッセージの全てだ。


■3曲目「END OF THE NIGHT」
この曲を書く前に、たまたまとある交通事故の遺族の手記を読む機会があった。
そこにはその事故で亡くなった子供の同級生が書いた手記もあり、その文章が辿々しさ故に非常に胸に来るものがあり、そこに書いてあった1文、「ごめんね、○○ちゃんにもっとやさしくすればよかった」には涙を流さずにはいられなかった。
その文章を読んだ事がこの曲を書く大きなきっかけになった。
楽曲的にはこの作品の中でもっともメロディーの際立った聴きやすい曲になっていると思う。


■4曲目「slow suicide」
人生そのものが「緩慢な自殺」である、という考えがある事を知ったとき、なるほどと思った。確かに全ての生命は殺されるか事故死しない限りは必ず「自死」する運命なのだなと。なんと達観した考えなんだろう!と驚き、この曲を書いた。
構成もメロディーもシンプルなオルタナナンバーで、サビのシャウトは歌っていてとてもスカッとする。
間奏のギターソロ前に一瞬変拍子風になるのはドラムス小寺良太氏のアイデア。
曲に良いフックを与えていると思う。
イントロの「ヒュイヒュイヒュイ・・・」という不穏なノイズはエンジニアの鈴木歩積氏が「ちょっといいですか」と自分の足下にあったエフェクターを無造作にいじり始め、その結果突如出始めた気持ち悪い音が意外に面白かった為、そのまま採用される運びとなった。


■5曲目「THORNS&PAINS」
今 作の中でも「END OF THE NIGHT」に次ぐポップなメロディーの曲だと思う。当初自分の中ではこの曲を今作に収録するビジョンは無かったのだけれども、海北大輔氏の熱烈プッシュ によりこの曲の良さを自ら見直し、結果収録して良かったと今は彼に非常に感謝している。
歌詞は自分が中学生のとき、1日だけのプチ家出をした事があり、その時の気持ちを思い出して書いた。


■6曲目「F.F.O」
自分も、そしてメンバー全員ともがmoke(s)の楽曲の中でかなり気に入ってる曲だ。
1曲の中に色々な展開が出てくる曲で、演奏していて非常に面白い。
サビで自分と海北君の歌の掛け合いになるのが1番の聴きどころ。
海北君のロストインタイムでは聴けない渾身のシャウトを聴くことができる。
この先もきっとこの曲はmoke(s)のライブの定番曲とし て演奏し続けられることだろう。
因みに「F.F.O」とは「FUZZ FREAK OUT(ファズキ○ガイ)」の略。


■7曲目「果て」
曲調も歌詞もアルバムのフィナーレを飾るのに相応しい曲だと思う。
ミックスが仕上がったもの聴いたとき、フェードインで始まるイントロから演奏が始まる瞬間の美しさに我ながら凄く感動した。
静かにゆっくりと燃え上がってゆくようなイントロから徐々に広がる景色はサビで一気に広がりを増し、間奏と終奏ではギターが爆音でかき鳴らされ、それがアウトロでまた静かに収束してゆく・・・
1曲の中で凄く綺麗に物語を表現する事が出来たように思う。
因みにこの曲のギターは珍しく変則チューニングをした。
結果それが功を奏し、他の曲とは違った音の世界観を出せた。



町田による作品解説は以上だ。
あとは出来るだけ大きなボリュームでこの作品を聴いて頂けたら本望です。

「な?moke(s)、カッコイイだろ!?」

自分自身でそう言い切れる作品を作れて、嬉しい限りです。


—–moke(s)/町田直隆(Guitar & Vocal)